憶えてることは、書いておくのだ。・・・そんなことが、ほんとにあったんだ。
あの日、俺は生田のアパートで夜更かしをしていたんだ。
そこへ、訪ねて来たのが風公君だった。付き合ってた彼女が少し離れた生田のアパートに住んでたんで、下北沢から遊びにきてたんだ。
血相変えて、俺の部屋に飛び込んできた。
「彼女がいなくなった!」
理由は、聞かないけど喧嘩かなんかして、彼女が部屋を飛び出した・・・・真冬の空の下・・ではなかったな夏だったと思う。
「あの娘は、思いつめる性質だから、危ない!・・・かもしれない・・」
「心当たりは、無いの?」
・・・・・・「江ノ島」
二人で、生田駅から小田急線 片瀬・江ノ島行きの最終電車に飛び乗った。
終電で着いた江ノ島は、人気も無く暗かった気がする。
暗い駅の周辺をぐるぐる探しながら・・二人で当たりつきの自動販売機で缶コーヒーを買おうとして、俺が当たって、当たった1本を風公君にあげたんだ・・・・そうだったよね。
二人で、コーヒーを飲みながら・・・彼が取り出したショートホープに、たぶんジッポかなんかのライターで火をつけた。うまそうに吸って・・・煙を吹き出した。・・・疲れた顔にタバコがうまそうだった。
「1本・・くれる?」
火をつけてもらって吸った生まれてはじめてのショートホープ・・・頭がくらくらした。
見つからない彼女と・・・クラクラした頭・・・夜中は、駅舎のベンチで横になっていたと思う。眠れるわけは無いけれど・・・暴走族?・・・バイクの集団が何度か深夜の駅前を通り過ぎ・・・
薄っすら、明るくなったきたころまた、近くをぐるぐる探しながら・・せめて、朝日の・・日の出ぐらい見ようとずーっと海を見ていたら裏側から太陽が昇った。・・・疲れて・・・疲れてなくてもそんなもんか・・・東も西もわからなかった。
あきらめて・・・始発の電車で生田に戻った。疲れた体と潮風とタバコの・・顔や手がべたべたになった感じがした。行きも長く感じたけど・・・帰りも長かった。
タバコは、それから吸い始めて20年ぐらい吸ってた。あれが最初だったと思う・・・・江ノ島駅で毎日新聞の記者の人が暴走族かなんかの若者に暴行を受けて亡くなったのは、それから何年か後のことだった。
生田に帰って彼女のアパートを確認した風公君から
「彼女が部屋で大の字になって寝ていた」という報告を受けた。いやみでなく、良かったと思った。
風公君と二人で笑った。そのまま彼は下北沢に帰っていった。
確かにそんなことがあったんだ。・・・・あれから30年近く・・・彼女は群馬県で風公君ではない人と結婚しているはずだ。・・・・・いいお母さんになっていることでしょう。・・・・だけど・・ほんとに二人でほんとに心配して江ノ島駅を歩いた夜があったんだぜ。
0 件のコメント:
コメントを投稿